僕には長年連れ添っている相棒がいる。
名前はスガシカオ。いつも「シカオ」と呼んでいる。ちなみにアーティストのスガシカオとは全く関係ない。単に語感がいいからそう呼んでいるだけだ。
腹部のぽってりとしたボディラインはとても愛らしく、どんな場所に座らせてもよく似合う。
また、だらっとした手足が下に降りているおかげで、どんな風景にも落ち着いていて馴染んでいる気がする。
この東京砂漠の枯れ果てた日々を共に生き抜く僕の相棒は、いつだって微笑みを絶やさない。
だから肩に乗せたい
しかし僕とシカオの関係には1点問題がある。
生き物として大きさが異なる僕らは、見ている世界が違うのだ。僕は目まぐるしく朝昼晩と頑張っていても、彼はただ自室で座って静止しているだけ。
日が沈み、自室のベットサイドで彼と見つめ合っていても、それは対面でのコミュニケーションでしかなく、相棒とは呼びながらも僕らは同じ景色を見て生活をしてはいない。
一方サトシやピカチュウ、ナウシカとテト、鬼太郎と目玉の親父のように、往年の主人公とパートナーは常に目線を揃えて冒険をしている。
そう、大切なのは「目線を揃える」ことなのだ。そして、そのためには相棒を肩に乗せて生活をする必要がある。
今回はそんな目的を達成するためにこんなものを用意してみた。
ダイソーに売っていた姿勢矯正ベルトの肩紐部分にグルーガンでネオジム磁石(とても磁力が強い磁石)をくっつけたもの。
そしてスガシカオの臀部に肩紐とくっつくように磁石を粘着テープなどで仕込めば……
このように相棒を肩に乗せることができるのだ!
(服の下に磁石付き姿勢矯正ベルトを着用しています)
こうすることで僕とシカオは目線を揃え、往年のキャラクターたちと同じように真の相棒となるのである。
おはようからおやすみまで
真の相棒となったからには、朝起きてから夜寝るまで、共に過ごすのは当然だ。
朝は起床してすぐ歯を磨くところから、シカオも僕と同じ目線となる。
どんな場所でも落ち着いているシカオは一方姿勢制御ができないので、こちらの上体が揺れると大変不安定になる。その点だけは気をつけなければならない。
その後朝食と夕食を買いにスーパーへ。
生憎の雨だが、相棒が肩に座っていれば傘も1本で済む!
肩に少しの重さを感じるが、それがなんとも心地よく同時に頼もしい。
いつも部屋にいる好きなものが確かな存在感と共に近くにあると、こんなにも安心するのかと驚く。
成長しても小さな頃から使っていたブランケットが手放せない、ブランケット症候群という言葉があるが、この相棒を肩に乗せる行為もそれと似たような恐れがある。
それほどに愛らしさを感じる存在との至近距離の生活は価値観に影響がありそうだ。
朝食を済ませて在宅での業務に取り掛かる。
正直肩にシカオを乗せているまま仕事をすることを同僚に知られるのは、恥ずかしい。
母親と出かけている時に学校の友達と会ってしまった時に感じる気恥ずかしさがある。
そう考えると、サトシやナウシカは誰かと話している時に相棒が肩に乗ってきても、全く動じず、当たり前のように過ごしていて感心してしまう。
まあ、相棒を肩に乗せている主人公たちは大体子どもなので客観視していないだけかもしれないが。
その点、現実的になってしまっている僕は、相棒を肩に乗せる適齢期を過ぎてしまっているのだろうか。
とはいうものの、仕事を終えて夕食を食べるときも、
その後の楽しみである映画を鑑賞している時も、
相棒(ぬいぐるみ)を肩に乗せて思うことは、やはり圧倒的な安心感だった。
孤独感が強いコロナ禍ということもあるかもしれないが、肩に相棒を乗せておくと、「すぐそばに誰かがいる」という安心感がある。
心地の良さだけではなく、すぐにリラックスした状態になれるのは息つまる現代社会においてとても助かることだなと感じた。ありがとうスガシカオ。
相棒と高みに挑む
自宅での過ごし方はある程度満喫したので、次は相棒と見たことの無い景色を見に行こう。
せっかくの機会なので、いつも目に入るが来たことはなかった東京スカイツリー展望台来てみた。
耳がキーンとなるエレベーターを出ると既にそこは高度350mだった。
平日の夜に来訪したので人はそこまでいないだろうと踏んでいたのだが、春休みなのか妙に混んでいる。
シカオを死角に隠しながら写真スポットを探していると、フォトスポットなるものを見つける。
スタッフさんが大層なカメラを使って、展望台から見える風景と共に撮影をしてくれるようだ。
しかも撮った写真は無料でいただけるらしい。あまりに都合が良すぎて本当に主人公になったみたいな気がしてくる。肩に相棒を乗せていると世界が自分を中心にしているような出来事に見舞われるらしい。
スタッフさんに声をかけて、荷物を下ろし、撮影場所に入る。
このとき念の為、「ぬいぐるみと撮影してもいいですか?」と聞いたのだが、スタッフさんは笑顔で「もちろんです!かわいいですね!」と言ってくれた。
気前の良いサービスに気持ちの良い接客。
至れり尽くせりでこれは自然に笑顔になれるいい写真が撮れるぞ!と思ったのも束の間、当然周囲からの視線は強くシカオに突き刺さり、すごく緊張した面持ちになってしまった。
さらにいただける写真の仕組みを勘違いしていて、サービスでもらえるのは、昼間のスカイツリーの模様にバラエティ番組のワイプほどの小ささで僕たちの姿が入っているものだった。
お金(1500円)を払えば、台紙付きで自分達だけの綺麗な写真がもらえるらしい。
そりゃそうか。タダでこんなにいいサービスをしてくれるわけはないか……。全然主人公じゃなかったな……。
拡大してみると、緊張して内股になっている僕と俯いてしまっているシカオが確認できる。
お互いに羞恥心が画になっているところから、感情までリンクしているような錯覚があった。
予想していなかった写真の仕上がりに動揺していると、スタッフさんたちは我々の姿に興味を持ったのか、声をかけてくれた。
一通り肩で安定している仕組みを話したところで、スタッフのお姉さんに「色んな場所で2人で撮影しているんですか?」と聞かれ、つい「ええ、そうなんです」と今回が初めての体験であるのにも関わらず、見栄を張ってしまった。
「すごーい!」と素晴らしいリアクションを下さるお姉さんの笑顔に、後ろめたさを感じてすぐ退散した。
肩に相棒を乗せていても、人間の本質は変わらないものである。
そうだ、プリクラを撮ろう
意図した写真が撮れなくてややしょんぼりした状態で帰路についていると、大通りに面しているゲームセンターを見かけた。
20代後半にもなると、ずいぶん縁遠くなった場所ではあるものだが、ゲームセンターには安価で個室の撮影ができる機械、そう「プリクラ」がある。
先ほどは周囲の目と立派なカメラに萎縮して、つい内股の格好となってしまったが、個室であるプリクラなら緊張することなく相棒との記念写真を撮ることができるのではないだろうか。
訪れた時間もよかったのか、ゲームセンター内には2〜3人クレーンゲームに興じているお客さんしかおらず、独身男性が肩にぬいぐるみを乗せた状態でもストレスなくプリクラ機に入り、撮影することができた。
こちらが実際のプリクラである。
最近のってこんなに修正されるのね……オジサンオドロイチャッタ……。
まあこれはこれで「見たことのない景色(そして新しい顔の僕)」だったため、予想だにしない形で元の目的を達成できた。
相棒は肩に乗せよう
いつも部屋で眺めるだけだった相棒を肩に乗せて、色んな時間を共にすると、なんだか主人公みたいな気持ちになったり、新しい自分に出会えたりする。
ちなみに今回磁石と粘着テープを使ってシカオに細工をしてしまったため、スガシカオの臀部に粘着テープの跡が残ってしまった。
磁石を活用しての方法は手軽ではあるが、大切な相棒を傷つけないために、工夫の余地はありそうである。
スカイツリーのお姉さんに「全国津々浦々でぬいぐるみを肩に乗せて2ショットを撮る人」と出まかせを言ってしまった後ろめたさもあるので、今後は春夏秋冬綺麗な景色にはシカオも連れて行って写真でも撮ってこようかと思っている。
なんだかんだ肩に乗せる体験を経て、より相棒となっていくことになりそうだ。