武道館のステージには割と立てる
この間、近所を散歩していたらこんな建物に出会った。
東京武道館である。
2つの武道場と大ホール、弓道場まで備えている大規模施設だが、千代田線綾瀬駅から徒歩5分と絶妙な場所に位置している。
興味に身を任せ、受付にお願いをして武道場を見学させてもらった。
行政施設特有のお堅い感じだけではなく、中々冗談にするのも憚られる厳粛さが武道場から伝わってくる。
きっとこの場で様々なドラマが繰り広げられ、汗と涙がこの格式を作り上げたのだろう。
しっかり礼をしてから武道場に入って、ぐるりと会場を回っていると、1段小上がりになっている場所を見つけた。
周囲の設備からして、きっと表彰や審判を行う場所なのだろうと推察できるのだが、ここに立った時にあることに気づいた。
「あ、これって“武道館のステージに立った”ってことになるのでは?」
武道館について考えてみよう
場所は変わって九段下。ここにはご存知「日本武道館」がある。
サンプラザ中野くんが「大きな玉ねぎ」と称した立派な建物がお堀の中にデーンと鎮座している。
ビートルズが来日した時に公演した事でも知られるこの武道館は、もちろん武道の会場でもあるが昨今はライブイベントで使われる機会も多い。
日本の代表的かつ国際的なステージである武道館は、多くのアーティストにとって憧れのステージだろう。
僕も日本武道館に訪れた際、客席から晴れやかなステージを見ると「いつかは武道館のステージに立ちたい」となぜか思ってしまうものだ。
そして今、突然この夢を叶えてしまった。
この状況、間違いなく「武道館」の「ステージ」に「立った」という条件は満たしている。
しかしどこか物足りない。
そうか、「立つ」だけではダメなのだ。ステージにはパフォーマンスが必須。
だったら自分で武道館を借りて、ワンマンショーをやればいいのだ!
武道館は全国にある
すでにステージを経験した東京武道館は誰も使っていなければ見学はさせてもらえるのだが、貸切利用となると話が大きく変わる。
結構なお値段がするのだ。
一般的なワンマンショーならばチケット代で回収できるのだが、観客も含めてワンマンな僕の公演では回収が難しい。
何とか手頃な武道館はないものかとGoogleマップに入力をしたら、案外世の中には武道館と名の付く建物が多いことが判明した。
※詳しくは下記サイトで色々検索できる
https://www.homemate-research-gym.com/useful/16148_sport_069/
こんだけ数があるなら、僕と同じように全国の武道キッズたちが「なぁ、オレいま武道館のステージに立ってるぜ!」とかいってそうだ。
まあ、それはそれとして、マップの中から関東で好条件の武道館を見つけることができた。
それがこの伊勢原市立武道館である。
ここの何がちょうど良いのか、何と言っても圧倒的な価格の安さ。
あの武道館を1時間200円で使えるなんて、なんて太っ腹なんだ。
会場(剣道場)も広さには申し分なく、
ステージもちゃんとある。
初めてのワンマンショーで、こんなに良い場所をたったの200円で使わせても良いのだろうか?
そんな後ろめたさがあったのだが、この武道館、年金積立金によって建てられた施設のようだった。
年金はかかさず払っているので、遠慮なく使わせていただくことにした。
ドリームズカムトゥルー
利用料は安くても由緒正しい武道館であることには変わりがないので、まずはきちんと礼をして入場。
夕方に訪れたのだが館内は静かで、冷たい床に靴下で上がっていると体温がどんどん奪われていく。
床材は体育館の床と同じ材質っぽく、放課後に1人体育館ではしゃいでいるようだ。
まずは通過儀礼として武道館のステージに立たせてもらって、
さあ、ついに始まるぞ!僕の武道館ワンマンショー!
夢の武道館ワンマンショー
まず武道館でやりたいことといったら歌唱しかない。
まさか、会社員である僕が武道館のステージでマイクを握る日がくるなんて。
ちなみにこの日、わざわざ半休を取得して伊勢原まで来ているので、この時間同僚は普通に働いている。
それを思うとなんだか、「会社員生活の裏でこっそりとコンサートをしている仮面アーティスト」の気分になってきた。
スリルと共に背徳感がすごい。漫画の主人公みたいな人生に酔ってしまいそうになる。
とはいえ、動員ゼロの無観客ライブというのはものがなしい。
ならば、ペンライトを振っているファン(僕)を合成して置いておこう。これでぐっと臨場感を感じれる。
実際にステージで歌ってみてわかったが、1人でも、武道館で歌っているという事実が妙に緊張感を覚える。
これがいわゆる“武道館の重圧”か……。
経験しちまったな……。
きっと僕が観ていたたくさんのアーティストもこうやって緊張をしていたに違いない。
これからは武道館ステージ経験者として、僕もその感情を分かち合うことができそうだ。
ワンマンショー、次の演目は武道館史上初かもしれない。
ピザ回しである。
投げているのは、ある日突然大学の先輩から授けられたピザ回し練習用ピザ(シリコン製)だ。
家に置いていても使い道がないのでほとんどタンスの肥やしだったのだが、まさか武道館でお披露目する機会があろうとは。
こんなことならもっと練習しておけばよかった。
しばらく楽しんだあと、自分のプレーを動画で確認していたら別のことに気づいた。
「あ、日の丸も背負っちゃってるじゃん!」
武道館で日の丸を背負ってピザ回しをする、こんなの文字面だけ見たら日本代表だ。
気分は上がるが、あまりの重圧に耐えきれなくなってきたので、その後そそくさと撤収をした。
外に出たら、すっかり日が沈み真っ暗。
武道館ってライトアップとかなかったでしたっけ……?
とりあえずわかるのは、時間が経つのを忘れるほど武道館のステージに夢中だったということだ。
何をしても大義名分がつく、それが武道館
今回、日頃憧れを抱いていた存在を形だけでも楽しむことができて非常に有意義だった。
武道館のステージで実演したというだけで、下手な歌も、あまり上手くいかないピザ回しもとにかく「箔」がつく。
「武道館のステージでやった」という事実が残るだけで、人は驚くほど自己肯定感を満たすことができるらしい。
それを証明するように、この日はかなりぐっすり眠れた。
武道館は人々に希望と力を与える、まさにパワースポットだ。武って言葉も入っているし。
しかしどんな武道館でもその場所自体は由緒正しく歴史もあるところばかりなので、礼儀と御作法はしっかり行なって、最後はキチンと掃除をしましょう。
(※僕のワンマンショーはほとんど半径1m以内で行われたのでとても楽でした。)
ちなみにこの原稿も武道館のステージで書き上げた。
そう、あなたが最後まで読んだこの文章、実は武道館のステージからお届けしたものでした。
どうですか?何だか高尚な内容だったように思えてきたのではないでしょうか?
おしまい。