かっぱ橋のカッパを全部捕獲する

上野と浅草の中間に、かっぱ橋道具街という商店街がある。

料理人向けから家庭用まで様々な調理器具を販売している店舗が約800mにわたって軒を連ねており、昨今はその幅広い商品ラインナップのおかげで、見るだけでも楽しい観光地となりつつある。

先日初詣に浅草へ赴いた際ついでだからと、かっぱ橋道具街に立ち寄った。あらゆる形のフライパンや店舗で使うような大型の冷蔵庫を眺めつつ、テクテクと歩いているとあることに気がついた。

「やたらカッパが目に付く」

目線をどの角度にしてもカッパと目が合うのだ。後ろを向いても、横を見ても、必ず視界にカッパがいる。

ふと視線を感じるとこういうのがみている

伝説の妖怪たるカッパとこんなに会うことができる街がこの大都会東京にあったなんて。
しかも顔を覗かせているカッパの見た目も多種多様、ローカルさも相まってかなりやりたい放題だ。

広告として適しているのかは疑問だ

実は僕はカッパが大好き。
少しおとぼけだけど飄々とした態度、お皿が乾くと弱るというユニークな設定。他の妖怪と違っておどろおどろしくないカッパの特徴はどこか人間味があり、親近感が湧く。

いつかカッパと遭遇することに憧れていた人間としては、突如これほどたくさんのカッパに会えるなんて、思わぬボーナスステージだ。
愛の押し付けで大変申し訳ないが、ここからは僕がカッパ橋商店街を2時間ほど歩き回ってゲットした、カッパスナップの数々をご覧いただこう。

かっぱ橋で見つけたかわいいカッパランキング

僕は美味しいところは先に食べてしまう派なので、まずは贅沢に2時間の集大成から見てほしい。
かっぱ橋に生息しているカッパのうち、とびきり可愛い3つをランキング形式で紹介だ!

第3位「めしだ!」

CV:金田朋子(イメージ)

飲食店の壁面に直接書かれていたカッパくん。
めしだ!の掛け声と共に見ている人を店内へ誘ってくれる。筆のタッチも相まって、躍動感を感じる良いカッパ。

第2位「藤子F不二雄先生風カッパ」

提灯や看板を販売しているお店の壁に飾られていた、微笑んでいるカッパくん。
どこか藤子F不二雄先生に近い雰囲気を感じられる。絶対いいやつ!!友達になりたい、友達になって手を繋いで一緒に登下校を共にしたい。優しいカッパくん。

第1位「高橋留美子風カッパ」

2位に引き続き巨匠タッチ風のカッパ。うる星やつらとか出てきそうじゃないですか、このカッパ。
絶対2頭身だし、すぐ泣いちゃうキャラの子だ。かわいい。
道のタイルに潜んでいるので、突然足元に出てくると踏みそうになって、よろけてしまう。カッパ好きには強い踏み絵効果があるカッパだ。

看板カッパ系

ここからは生息しているジャンルや見た目の印象を区文化してご紹介したい。
まずは最も目立つとっても過言ではない、看板や店先に生息しているカッパたちだ。
最初はかっぱ橋の公式キャラクターとも言えるこのカッパから。

かっぱ橋道具街には「東京合羽橋商店街振興組合」という組織が存在しており、その組合が発行しているものには必ずこのカッパがいる。
調べても名前がわからなかったので仮名でオフィシャルくんと呼ぶことにするが、組合に所属しているお店には必ずといってもよいほどオフィシャルくんの顔がある。

感染拡大防止にも一役かっている

公式であることもあり、その一目でカッパとわかる愛らしい見た目。誰が見ても不快感を覚えないビジュアルなのが特徴だ。

信号待ちの人が全員見ている看板にも

中にはぬいぐるみVerを飾っているお店もあった。

手足が短くてかわいい

他にもお店オリジナルの看板カッパはたくさんいる。
オリジナル作品はそれぞれ作者の個性が強く表れているのが特徴で、
カッパのボディラインがデフォルメされすぎて落花生みたいになっているものや、

画力が著しく高い水木しげる風のカッパがこっそりと値札などに潜んでいることがある。

お店の人が手書きで書いたカッパたちは、そのお店に関するもの持っていることが多い。
カッパの見本を見ながら、絵の得意な店員さんがこれを頑張って描いてくれたことを思うと、それだけで愛おしくなる。

優しいお顔とコテがよく似合っている


看板カッパたちは文字通り、店の顔。
店先カッパの出立ちから、その店の雰囲気や歴史を感じることすら可能だ。

立体カッパ系

道具街を歩いていると、突然人間の頭身に近いカッパに遭遇することがある。
そのリアルさと緑のインパクトに思わず慄いてしまうこともあるが、やはり3次元になると妖怪との遭遇感がぐっと高まる。
これは刃物店の店先にいたカッパのパッくん。

スカーフに名札がついていた

愛らしいお顔に気を取られていると彼がフライパンを持っていることをつい見逃してしまう。頭のお皿の更に上にはコック帽があることからシェフの姿をしていることがわかるが、コック帽の不安定さが気になって仕方がない。とてもかわいい。

続いて、商店街の軒先にたくさんいるフライングカッパ。

店と店の間に大体この子が飛んでいる

通り中をたくさんを滑空していることから、おそらく組合が設置したと思われる。
その色味やデザインから、もしかするとオフィシャルくんの旧型なのかもしれない。昔ばなしっぽくてかわいい。

通りの脇に少し入ると日陰から突如現れるこの子は極楽カッパ。

どうして極楽の名を冠しているのか説明を求め周囲を探したが、結果は不明。でも気だるげな眼と真っ黄色の出ベソがチャームポイントだ。
ちなみに彼の後ろ姿には、

KAPPAってHAPPYと似てるね

ローマ字で「KAPPA」と大きく書かれている。浅草観光に訪れるインバウンド観光客にもキッチリ対応ができている。

かっぱ橋は観光的な側面があることを冒頭でもお伝えしたと思うが、最も観光地っぽいものが通りの中腹あたりに存在している。
ポケットパークに建てられてる「かっぱ河太郎像」だ。

通りから少し離れたエアポケットに屹立していた

どうしてこんなに金ピカなのかは分からないが、この像の横に立てられている石碑には、このかっぱ橋(正式には合羽橋)がかっぱ橋と名乗っている所以が記されているのだ。

今から約180年前の文化年間、合羽川太郎(本名合羽屋喜八)は、この辺りの水はけが悪く少しの雨ですぐ洪水になってしまうのを見かね、私財を投げ出して掘割工事を始めました。
なかなか捗らない工事の様子を見ていた隅田川の河童達は、川太郎の善行に感動して夜な夜な工事を手伝ったそうです。そして、なぜか河童を見た人は運が開け、商売も繁盛したといいます。

(ー東京合羽橋商店街振興組合HPより一部引用。)


そう、この金ピカのかっぱ河太郎はかっぱ橋が作られるきっかけとなった張本人、合羽屋喜八の像なのだ。
あくまで諸説あるうちの1つではあるらしいのだが、この街が彼を尊敬していることがこの派手な見た目からよく伝わる。
人間だったはずの喜八までカッパにしてしまうことに関しては愉快でもあり恐ろしい部分でもあるが、しかし彼自身がかっぱ橋を背負って立っている姿は思わず拝みたくなるほどかっこいい。

リアル志向系

ここまで紹介してきたカッパ達はどれも愛らしい、デフォルメされていたカッパ達だった。
しかしカッパはあくまで妖怪の一種。古くから伝えられているカッパのフォルムは少々おっかないものもあり、このかっぱ橋にもそのようなリアル志向のカッパが多く存在している。

写真だと分かりづらいがショーケースの手前に鎮座しているカッパの木像。
正月ということで恵比寿様と並んでいるこちらは、その出立ちから重々しい。
今までのカッパ達と比較することで、カッパの愛らしさの要因は丸みのあるボディラインであることがここでわかった。僧侶とか坊さん的な見た目からきっと随分ストイックな生活をしているのだろう。

立体カッパでもあるこの子、その褪せた木目の風味と相まって、少々不気味な雰囲気を醸し出している。

画像が暗いのではなくここ一体が暗すぎるのだ

その顔立ちに特徴はなく、どことなく宇宙人を彷彿とさせるが、頭身や体つきは人間のものと大差ない。
しかし頭部にカッパの顔のお面をつけていることから、これがカッパにまつわる何かであることには間違いないのだが、説明書きも名前も所有者も判然としない。これぞ謎ガッパだ。

こちらは個人的にお気に入りの立体カッパ。

左は水面からこちらを覗いているシーンを見事に再現している。
造形物の8割はカッパではなく水面を作っているのだから、作成者の表現に対する気合を感じた。
そして妖しいカッパの雰囲気をが漂う右側。2次元的なカッパの姿を立体にしつつ、顔はどこか愛らしいカッパの魅力を見事に表した。座り込んでいる姿も他のカッパの立ち姿とは異なるオリジナリティに溢れる。かわいい。

(※ここからちょっと不思議なカッパが登場します。上記が少し怖かった人は、最後まで飛ばしてください)

カッパ寺を訪れる

カッパ橋道具街をぷらぷらしていると、このような看板に遭遇した。

かっぱ橋のエリアマップだ。おそらく組合が作成したのだろう。
かっぱ橋通りの名所や通りの名前を紹介しているらしい。この後どう巡ろうか何となく眺めていたら、気になるスポットを発見した。

「かっぱ寺 曹源寺」

“かっぱ”と”寺”という一見関連性がない単語が並び立っていることに違和感を覚えるが、ここはかっぱ橋、そのような寺があってもおかしくはない。
かっぱ寺というからには、さぞたくさんのカッパが集まっているのかもしれない。カッパ好きの僕としては願ってもないスポットだ。

現在地からさほど遠くもないので、地図を元に早速向かってみると、商店街のメインストリートから少し脇に入った道に曹源寺はあった。

ちゃんとかっぱ寺と書かれている

かっぱ橋によるカッパの聖地、そんな愉快なことを想像しながら曹源寺に向かった僕は、入って早々に置いてあるこのカッパによって強く衝撃を受けることになる。

かっぱのぎーちゃん。
初見でこの子に遭遇した時、「どこがカッパなんだ?」とまじまじと眺めてしまった。
そして近づいて見た時に、やっとぎーちゃんの輪郭がわかる。
これは、カッパの顔を縦に伸ばしたような見た目をしているのだ。

オフィシャルくんでやるとこういうイメージだろうか

楕円形の目、歯車のような頭部のお皿、そして大好物のきゅうりに近い形をした面長の顔。
その情報を受け取ったときにぎーちゃんの異様さに気づいた。異様だ、そして怖い。

リアル志向系で徐々に感じていた、カッパが持つ不気味な力が結集したような見た目。そしてそれにつけられてた「ぎーちゃん」というポップな相性。そのチグハグさに全身が泡立つ。

ふと顔を見上げると、曹源寺の明るい境内が見える。

お寺が持つ侘びさも相まって、見た目よりも広く、そして寂しく見えた。
カッパ寺の名の通り、足元にはカッパの石像がいくつかいる。

右奥のカッパとはずっと目が合う 生きているのか?

入口から10歩ほど歩いて右側には短い階段があり、その上に本堂があった。

手間にはお地蔵様のようにカッパがおり、本堂内には日本画テイストのカッパが飾られているのがガラス戸越しに確認できる。
その引き戸の前には賽銭箱と共に沢山きゅうりが備えられており、このカッパ寺の人気の高さも伺えた。でも賽銭箱に書かれているカッパのイラストがちょっと怖い。

写真には残せなかったが、実はこの本堂、“カッパの手”なるミイラが保管されているらしい。
HPに行くと、ギャラリーにて僅かにその姿(骨のようなもの)をみることができるようだ。
https://www.sogenji.jp/kappa/

曹源寺は先ほど金ピカの像になっていた、合羽川太郎も眠っているお寺。
それゆえにこのかっぱ橋におけるかっぱ伝説の発祥として、かっぱ寺の愛称が与えられているようだ。

かっぱ橋伝説で伝えられているカッパ達は、人々を水難から救った英雄であり、そのカッパを見ることで幸福になるとされている。その力を色濃く持っているからか、ぎーちゃんを始めこのかっぱ寺にいるカッパ達からはどこか独特な雰囲気を感じた。

かわいいカッパが8割

カッパ寺でどうにも気持ちが落ち着かなくなってしまったが、かっぱ橋にいるカッパは基本的には可愛いものばかりなので安心してほしい。

約2時間の散歩で48体のカッパを写真に収めることに成功。ほぼほぼ網羅できたのではないかと思う。

カメラロールがカッパだらけで嬉しい


ここで紹介しきれないことが歯痒いが、至る所に潜んでいるカッパ達はそれぞれ見た目が異なり個性的だ。掘れば掘るほど、カッパという存在そのものの深淵さえも感じることができる。

プロを支える調理器具が揃う街、かっぱ橋。
専門店街でありながら、一般向けにも広く開放されている街ではあるが、店先に並ぶ商品やプロ御用達というそのイメージから入りづらいと思わせる部分もあるかもしれない。
そんな悩みを抱える商売人達を助ける目的で、この街に存在するカッパ達がお店とお客さんを繋ぐため、愛らしさを看板に我々を引き寄せているのかもしれない。

浅草からも上野からもアクセスが良いかっぱ橋道具街、ぜひ一度見にきてそのカッパの多さと愛らしさを見つめてみてほしい。

その他:ちなみにこれはカッパだと思って近づいたら全然違う画素数の荒いおじさんのイラスト)
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