1月の中旬で仕事を退職した。
2月からまた新しい会社にお世話になるのだが、それまで1週間ちょっとお休みになる。
このわずかな休息期間をどう有効活用するか悩んだ結果、1人で富士急ハイランドへ来てみた。
富士急ハイランドは東京からバスで2時間ほどで着く、山梨県にある遊園地だ。
40を超えるアトラクションはいわゆる絶叫系が多く、日常では感じることができないスリルを体験できる。
なぜ富士急に来たのか。それは、再び始まる労働に向けてより強い負荷を心身に与え、ストレスに体を馴染ませることで、これから訪れる労働による苦しみを軽減できると考えたからだ。
さらに人間が最も辛いのは「孤独」(※個人の見解です)。
恐怖とともに孤独による苦行を強いることで、さらなるストレスを得れるのではないか。そういった論期的な思考を経て、東京駅発の富士急行きのバスに飛び乗った。
※これから始まる世にも恐ろしいレポートは、日頃労働で辛い目にあっている方々へ労働より辛そうなことを試した実際の結果をご覧いただくために作成したものです。
向かうだけで感じるスリル
都内在住でこれから富士急ハイランドに行こうとしている方は、ぜひバス乗車券付きのフリーパス(アトラクション乗り放題の入園券)を購入してほしい。
公式アプリから販売されている、東京駅発着の往復バス乗車券付きフリーパスは今ならなんと6500円。
通常フリーパスだけで7200円かかるので、交通費込みで通常の1割引となる今の時期は、富士急ハイランドに行くのにうってつけなのだ。
東京駅から7時40分発のバスに乗車すると、1人で乗っているのは僕だけ。あとは大学生とみられるいくつかの集団が乗車していた。
コロナ禍なので席こそ離れているものの、団体客の中に1人だけ椅子に収まっている様子はやたら浮いているのを感じる。
車内は大学生の高いテンションが空気を漂い、僕の孤独な肌に寂しさが響く。
バスが出発して数分、そんな車内の様子を察したのか運転手さんからのアナウンスが流れた。
「えー、このバスには集団のお客さまでだけではなく、個人のお客さまも乗車しております。大声での会話はお控えくださいー」
アナウンス内にある「個人のお客さま」は当然僕のことを差している。
その呼びかけによって「あ、やっぱりあの人は1人なんだ」という事実が車内の共通認識となり、その驚きのおかげか結果的にバスは静かになった。
その後2時間ほどバスに揺られ、オープン15分前に到着をする。
まだ入園できないので、駐車場で今朝食べ損ねたおにぎりを食べていた。
その様子を三脚を使って撮影していると、通りかかる大学生たちがこちらをみて、ヒソヒソ話してい流のが聞こえた。
「ねえ、あれYouTuberじゃない?」「うわ、絶対そうだわ」
その「うわ」が何の「うわ」なのか気になったが、羞恥心の方が勝ったので急いで現場から離れた。
孤独>絶叫マシン
10時を迎え、入園する。
祝日ではない月曜日の朝イチで富士急に来たが、今の富士急ハイランドは人の少なさが目立ち、とても閑散とした印象を受けた。
入園ゲートをしばらく観察していても、4人グループが15組くらいしかきていない。
広い園内が一層広く感じる。
過去3回ほど富士急ハイランドに来たことがあるが、これほど空いているのは初めての経験だ。
これまで人気のアトラクションは平気で2〜3時間並んでいたのに、今は大体10分〜長くても20分で乗ることができるようだった。
一部のアトラクションは運休だったり、午後からの運転だったりと調整が入っているようだが、1人で来ていると早く帰りたいため、残念などと思うことはない。
早速アトラクションへ向かう。まずは回転型コースター「ええじゃないか」に乗ってみることにした。
ええじゃないかがどんなコースターかを簡単に説明すると、椅子の背もたれの背面に棒がくっついており、その棒を支柱に椅子が前後回転をしつつ、急降下・急上昇するコースターだ。
通常のコースターと違い、足場がなく前後の回転によって高所で頭から落ちたり、後ろ向きに落ちていく。
要するにとんでもなく怖いジェットコースターということである。
待機は10分もかからないので、すぐに搭乗口へ案内される。
初めて1人でジェットコースターに乗って気がついたが、ソロライダーは奇数人数で訪れた仲良し集団の間に詰め込まれることになる。
その気まずさは想像を絶するものであり、全力で自分の気配を消そうと苦心をする。
その結果、ジェットコースターの体験から楽しさが欠落し、(急降下のGによって生じる)苦しさと(衝撃で叩きつけられる首周りの)痛みだけを味わうことになる。
目立ちたくないという気持ちから絶対に声を出せない緊張感があったため、声も息も漏らさずなんとか耐え抜いた。
その様子を僕の横で見ていた大学生が搭乗後、「横の人、一言も声を発さなかったぞ……」「怖くなかったのかな……」と仲間内に噂しているのが聞こえた。
孤独の方が怖いさ、と声をかけるのをグッと堪えてその場を後にする。
人は環境に適応する
その後「鉄骨番長」や「レッド・タワー」といったアトラクションに乗っては、ただただ辛さに耐える時間が続く。しかし、お昼を過ぎたあたりである秘策を見つけた。
孤独による嘲笑を避けるには、1人で来ていることを悟られないようにすればいいのだ。
移動の間は通話しているフリをして待ち合わせに向かっている体を装ったり、休憩でベンチに座っている間はあえてアトラクションの近くに座り、拍手をしながら見上げていると「誰かと一緒に来た人」を装うことができる。
このように「誰も近くにいないが、誰かと来ているはずの人」になることで孤独感を感じることなく園内を散策できるようになった。
いくつか1人でアトラクションに乗ったが、ソロライダーに最もおすすめしたいのは「テンテコマイ」。
何が良いかって、他のほとんどのアトラクション待機列は大体2人分(2列)で作られていることに対し、なんとこちらのアトラクション、待機列の幅が1人分(1列)なのだ!
この狭さなら1人で並んでいても、ソロで来ている人とはほとんど思われない。
さらにアトラクション自体も飛行機型で操縦席は1人乗りなので、知らない人と隣同士で恐怖体験をするといった目にあうことはない。
この日初めてちゃんと楽しめるアトラクションに出会えたことがとても嬉しかったので、「テンテコマイ」には3回も乗ってしまった。
精神が麻痺して怖いものがなくなる
夕方頃になると絶叫の怖さと行動の虚しさで心が麻痺し、あらゆる恥ずかしさを感じなくなる。
1人で記念写真を撮ることにも、
トーマスのコースター(※正確にはロックンロールダンカン)で1人で乗ることにも、
全く羞恥心を感じなくなった。富士急ハイランドに1人で来ると、魂が強くなり無敵になる。
コースターが1番高いところで一時停止して、その後一気に急降下するというイカれたジェットコースター「高飛車」にも2回も乗ることができ、いよいよ気分も上々だ。
1人で訪れると、通常混雑していて楽しみきれない富士急ハイランドをどっぷり味わうことができる。
またソロライダーは、アトラクション運営においては人数調整にちょうど良い役割を担っているので、スタッフの方には何だか歓迎されているような気がした。
さらにはこの絶景の富士山!
これを常時眺めることができる環境にあると、全く人の目は気にならなくなる。
富士の雄大さに比べると人間同士の嘲笑など大した問題ではない。ここにいる人達にはどうせ2度と会うことはないのだから。
富士急ハイランドには逆に1人で来た方が、このような悟りにも似た気持ちを味わうことができる。
ソロライダーのためにも、全国の遊園地にはぜひ1分の1スケールの富士山を置いてもらえると嬉しい。
遊園地は1人で行っても楽しい
個人的に今回1番感動したのは、アトラクションに乗るときに行う「顔パス」だ。
富士急は今、顔認証型フリーパスを導入しており、事前にアプリで顔写真を登録しておくことで、各アトラクションに乗る際にカメラに顔を写すだけで搭乗できる。
ディズニーランドでもアプリのQRコードをかざすことでフリーパスの認証をするが、携帯を出すことすらなく、顔を見せるだけで良いこのシステムのおかげで、かなりスムーズに列が進む。
こういった1つ1つのストレスポイントがないのが嬉しい。
労働という苦行に耐えられるよう、辛いことを味わいに行った1人富士急ハイランドだったが、紆余曲折あって、結果的に楽しくなってしまった。
しかし逆を言えば、労働だって、工夫をすれば楽しくすることが可能ということになる。
例えば、富士山であらゆることが気にならなくなったのなら、話題のワーケーションを使って雄大な景色の元でテレワークをすればイライラすることは少なくなるかもしれない。
ストレスを感じた時にその逆の対処を工夫によって見出すことで、現状を乗り切ることができる。
人間は環境に適応できる生物であることが1人富士急ハイランドで実感できた。
苦手だなと思うことや、普段羞恥心が邪魔して挑んでいなかったことにもこれからは積極的にチャレンジできる気がする。1人で富士急ハイランドを満喫したことで、これからの人生の幅が広がった。
めでたしめでたし。
※この日5時間の滞在で堪能できたアトラクションたち↓
- 鉄骨番長
- ええじゃないか
- レッド・タワー
- テンテコマイ×3回
- ロックンロールダンカン
- 富士飛行社
- FUJIYAMA スカイデッキ
- 高飛車×2回
- メリーゴーラウンド
※短時間でアトラクションに乗りすぎて、帰り際には乗りもの酔いになったものの、駐車場横のコンビニで大量の酔い止めが販売されているので、問題はありませんでした。
富士急ハイランドはとにかくホスピタティが行き届いています。