漢検を持っているので、難しい漢字に出会うとテンションが上がる。
先日も本を読んでいたらこんな言葉に出会った。
異種感覚間可塑性
いしゅかんかくかんそせい、と読むそうだ。
これは、失われた感覚の役割を別の感覚が補うように、脳の機能が変化する現象のことをいう。
例えば視覚に障害がある人の聴覚が鋭くなったり、触覚や嗅覚が鋭敏になることを指すのだが、これは実際に視覚で使われていた脳の部分(視覚野)を、失った視覚の代わりに聴覚の処理で使われることによって起きるらしい。
創作の中でも、五感の1つを失っている代わりに別の能力が卓越しているキャラクターがいたりするので、この現象自体のイメージはしやすいと思う。
実はこの異種感覚可塑性、目隠しなどの一時的なものでも、ほかの感覚の可塑性を上昇させられることが知られている。
そんなことを知ってしまったら試してみざるを得ない。
日常の中で異種感覚可塑性を発揮して、ランチパックを目隠しで食べて中身を当てよう。
東京だけにあるランチパックの自販機
江戸八百八町とはよくいったもので、東京にはもはや何でもある。
今回目隠しランチパックを実践するために、ランチパックが大量に集まっているところを探したのだが、デイリーヤマザキと東京駅にあるランチパック自動販売機が検索に引っかかった。
この2択なら、断然シュールそうなランチパック自販機に会いにいくことにする。

ちなみに、大量にランチパックと会える場所として、以前は秋葉原のつくばエクスプレス駅に専門店があり、茨城出張のときに必ずのぞいていたのだが、いつの間に閉店していた。

ともかく今回の対戦相手を選ぼう。

そうして5つのランチパックが自宅に集った。

ランチパック、あまりにも日常に溶けていて気づけないが、見れば見るほど不思議な食べ物だ。
サンドイッチのようでサンドイッチではないが、その実はサンドイッチなのだから。
ランチパックとサンドイッチの違いは、外観が食パンで覆われていることから、その中身はパッケージの写真や文字を見ないとわからない。
そのおかげで持ちやすく食べやすいが、一方でパッと見では何が入っているからわからない怖さがある。
この壁を、異種感覚可塑性を使って超えていきたい。
身近にある奇跡
目隠しをセットして対戦準備完了である。

目の前にはパッケージを皿の下に仕込んだランチパックがある。

念入りにシャッフルをしたので、本当にどこに何の味があるのか、まったくわからない。

手探りで適当なランチパックをつかみ、視覚以外の感覚を頼りに想像してみる。


「あ、なんか甘い匂いがするなぁ」

「チョコレート?」

正解でした。
5択の中でチョコ系はこれしかないので、これだけは正直楽勝です。
続いて、次のランチパックへ。

「あ〜さっきのよりちょっと重いな…」

「匂い、全然わかんないけど、、、少しソースっぽいものを感じる」

自分がいま何をしているのか全くわからなくなって思わず笑ってしまった。
情報がないのに見た目の情報量が多い状況にウケてしまう。
そんな見えない絵面のシュールさに気が取られながらも……。
「ハムカツ?」

しっかり正解を取っていく。

正直いって、目隠しをしたくらいで能力が向上するなんてまったく信じていなかったのだが、なんとその先3問連続して正解となり、僕はランチパックに完勝した。



おいおいおい、、、、
異種感覚間可塑性、起きちゃってんじゃん!

そもそも目隠しは必要だったのだろうか
目隠しランチパックという馴染みない競技で全問正解を叩き出してしまい、衝撃を受け止められないまま、余ったランチパックを食べていたとき、ふと気づいた。
「ランチパックってそもそも中身見えないから、目隠しいらなかったのでは?」

そもそも、見えないものに対してさらに目隠しをして一体なんの意味があったのか。
検証を進めることに頭がいっぱいになってしまい、自分の状況をもっと引きで見ればよかった。
カメラロールを遡ってみたら、どう考えても不必要なことをしている絵しかない。
どうしてブラインドしている食べ物を目隠して食べているのだろう、俺は。
気づいてしまったなら、試してみるしかない。
改めてランチパックを3つ調達してきた。

今回はチョコレート系で統一したことで、嗅覚での判別をつきにくくしている。
では、視覚の情報が加わることで、ランチパックの中身を当てることができるのだろうか。

とりあえず持ってみる。見た目的にはなんにも違いがわからない。

持ってみた感じ、ちょっとずっしりと手応えがあるので、中身に固形物が入っているのかもしれない。
だとすると、チョコまみれはカントリーマアムが1つ分入っているから、この3つの中では重い方になるはずだ。
(こんなに考察が走る企画だったっけ……?)
じゃあこっちの軽い方はクリームだけのtopsランチパック……?

もう全然わからない。
視覚の情報が入ることで、考えられる情報が多くなり、答えを絞れない。

僕の脳がなにも情報処理できていないことを感じる。
あぁ、異種感覚間可塑性の感覚が懐かしい。
結果、全部外した。

5連勝からの3連敗。
ここまで逆になることってあるの?
まるでドーピングがバレてしまったような気恥ずかしさすら覚える。
いや、もうランチパックを食べるときの目隠しはドーピングと等しいのだ。
それにしても自分の勘の悪さに驚く。

今後大事な判断をするときは、毎回目隠しをして感覚を研ぎ澄ましたほうがいい気がしてきた。
とにかくランチパックの中身を当てたいときは、異種感覚間可塑性に頼ると効果的だという検証になった。
意味のないことに意味がある
見た目で中身がわからないランチパックに、あえて目隠しで向き合うことで中身を当てることができる。
この事実は人生において一見意味のないことでも、実はしっかりとした効果が出ているのだという学びを感じる。
日々の生活の中で行っている一見意味ないこと、例えば、
・ショート動画をただ観ているだけの日曜夕方
・出品したものが実は売れるのではとメルカリで何度もリロードをしてしまう土曜午前
・YouTube広告のスキップができるのを待っているだけの15〜60秒
これらだって、もしかすると何かしらの意味がいつか出てくるのかもしれない。
今後も人生の余暇を使って、意味のないことを続けれるだけ続けていったその先に、目隠しランチパックのような現象が起きることを期待していこうと思う。