もうあと数時間で9月を迎えるというタイミングで、冷蔵庫から卵が弾け出てきて何もかもが終わった。

もう何もいうな
これがどういう状態かというと、前職の同期から子どもが生まれました!という報告が来ており、横でバスタブから湯が溢れており、トイレの電気がつけっぱなしと気づいた時でありであり、いっぺんに全てが嫌になった。
まず落ち着いて現場写真をたくさん撮影し、冷蔵庫を慎重に開けて缶ビールを飲みながら、流れていく白身と黄身をじっと見守った。
少し悲哀に満ちたことでも思いつくかなと期待したが、ただただ悲しさが増すばかりで、誰からも心配も共感も同情もされないこの部屋と俺に対して、大声で反抗しそうになる。何も解決などしないのに。
その後まずお湯を止め、電気を消し、卵の殻を取り除く。大量のキッチンペーパーに包まれた卵(回収ができなかった液たち)の気色悪い感触を感じながら、ゴミ箱に強めに押し込んだ。明日が燃えるゴミの日で、今日が涼しいことだけが何よりも救いだった。
絶対9月は最高の1ヶ月にするからな!!というかしろ!!誰かが!!!それくらいの悲しさを、確かに感じているんだぞ俺は!!!!
卵を片付けて、それをおくびにも出さず同期に「おめでとう!」とLINEを返す俺にうっとりして、「俺も強靭な魂の持ち主だ」と誇らしさすら感じたが、子どもを抱えている彼と卵を片付けている俺とでは、どう足掻いても埋まらない差分があり、それを俺だけが自覚している地獄。
またしても前世での咎を実感してしまった。月末なのに。
月末は優しくしてくれっていつも言っているのに!!
来月に期待をすることもできればやめておいたほうがいい。
でもいいのだ。今日は賞与が入ったから。いい感じにお金が溜まっているから。卵とか全然買えますし。何なら高級なやつ買ってしまおうかな〜〜俺には子どもとかいないもんで!!
そんなことよりもVRですわ。俺はもう現実には何も期待しない。卵割れるから、現実ってやつは。
仮想空間で飯食って生きていく。仮想空間なら卵は割れないし、同期も出産しないし。
現実とのつながりを断つことだけを求めて、ただただ積み上がる口座を、楽しみに生きていくぞ。