4/23_決戦後の金曜日

 連休にやるタスクをほぼ消化した金曜日。まもなく東京に緊急事態宣言が出る。そもそも緊急事態なのに事前に発出がお知らせされているのは優しさなのか慣習なのか。すでに緊急事態に慣れてしまっている我々にこれ以上の危機感は必要なのか、甚だ疑問ではある。

 すでに休みに入って7日ほど経過した。
初日は髪を染め、2日目には手紙を書き、3日目には荷物を整理して、4日目にはそれを売ってお金にして、5日目には実家に帰って、6日目には食べたかったお菓子屋さんに行って、7日目に履歴書を書いた。
 死に向かっているのか生きようともがいているのか、絶妙なラインだが本人はまださほど休みのありがたさを感じることはなく、ただ漫然と生きている。

 平日は人手が少ないので色々なところへ行っている。その度何かを思い出してそれなりにノスタルジーを感じているが翌日になると忘れてしまう。気づきを残すために日記を書いているのに、気づきを残すまえに忘れてしまってしまい日記のモチベーションも上がらない。 
 一昨日実家に荷物を置きに行ったらたまたま母に遭遇した。
我が家にとって冠婚葬祭以外で家族とエンカウントすることはレアなのだ。そしたら久しぶりに会った母は1人、amazonプライムで『ホリミヤ』のアニメを観ていた。『ホリミヤ』は高校生同士の青春を描いた学園ラブコメである。それを赤いちゃんちゃんこも着るであろう母が観ていた。
なぜ?キャッチコピーは超微炭酸系ラブストーリーだぞ?歳をとったなら刺激を求めに行ってくれ。甘酸っぱさを楽しんでどうする。
 その帰路、電車に乗っていたら向かい斜め前が若くて綺麗なお姉さんだった。スカートが短く隙だらけで危うい。
並列に座っている男性陣は全員彼女のことを見ていた。スマホを見ているふりをして視線だけがうわずべりしているのが地下鉄の暗い窓ガラスに映っている。
 こういう時、健全な若い男としてそれに倣う俺と全てを軽んじ斜に構えているかつて天才だった俺が倫理を隔てて戦う。昨日はたまたま後者の俺が勝ったため、俺は彼女の艶かしい状況を遮るベくわざわざ彼女の前に立って、隙間を塞いだ。その瞬間感じる殺意の視線。かつて天才だった俺は自分が守っている実感を確かに感じながら彼女が駅を降りるまで殺気に耐え続けた。
 自己犠牲と崇高な精神のもと、確かな正義を実行していると思い込んでいる俺は、いつの間にか悦に入ってしまい完全に目的の駅を通り過ぎてしまっていた。慌てふためいてジタバタしていると目の前の彼女と足がぶつかってしまい迷惑そうな顔をされる。不本意だ、俺は君のために‥‥‥と言いかけたところで地下鉄の窓に情けない自分が映って膝がかすみになったのかと思うほど虚脱感に苛まれた。そうだ、全部俺が悪い。

 今日はその反動でずっと家にいる。膝を抱えてNHKを観ている。
ありがとうNHK。NHKは愚者でもわかりやすい教養を1日かけて伝えてくれる。
みんな価値あるNHKに、受信料を払おう。 

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