11/11_タイムマシーンのお願い

 子ども頃の夢を皆さんは覚えているだろうか。
俺は小学生の時、気象予報士になりたいと思っていて、それが「子どもの頃の夢」だと信じていたのだが、今朝それが虚偽であったことを知った。
どうせ今日も飯食って仕事して寝るだけという平日を過ごしているところ、母からラインがきた。
うちは同じ釜の飯でも別々の部屋で食事を取るという異常な核家族で、連絡があること自体が珍しいため、不具合でも起きたかとすぐさま既読をつけた。しかし結果はいくつかの画像が送られてきただけだった。
 どうやら地元に埋まっていた俺のタイムカプセルが掘り起こされ、中に入っていた「20年後の私へ」というタイトルの手紙が実家に届いたらしい。
 そういえば小学生の時に行政からの通達でそんなイベントをしたのをうすーく覚えていた。
送られてきた画像には同じ小学校に通っていた姉貴の手紙も映っており、
わたしはこどもがすきなので、ピアノができるほぼさんになっていると思います。こどもたちはかわいいですか?」といった旨の温かい文章が書かれていた。
 このイベントは、そういった子どもの頃の綺麗な自分からの素敵なメッセージを感じるシーンなのだと思う。さあ、それでは20年前の俺からきた手紙がこちらだ。

 中々読みづらいので翻訳すると「20年後の僕へ、家を作る人だぞ」と書いてあった。
 まず俺に言いたい。余白を作るな。この20年後、文章を作ることを趣味にしている人間の原点で、ありありと余白を作るな。
そして何でそんなに強気なんだ。こっちは大人だぞ、どう考えても20年の人生の積み重ねを無視してメッセージを考えているだろこいつ。
 それはそうと、大工?俺の子どもの頃の夢って大工だったのか?
ちなみに裏には自分に宛ててのイラストも描かれていた。

 

 ガキの絵、おもしれ〜〜〜〜!ワイルドに家建てすぎだろ〜〜〜!
建築の最終行程で壁にトンカチを叩きつけている様、クールすぎる。意味わからん。
そもそも家を建てたい理由に覚えがない。
 俺は気象予報士になることでイケメンでも歌唱力があるわけでも才能があるわけでもなく、純粋な努力だけでテレビに出れると思っていたはずなのに。そして特に才能を使うことなく、ちやほやされることを目指していたと思ったのに。
 しかし違った、俺は大工になって家を建てる人だったんだ。え、なんで?
どうにも納得ができなかった俺は、急遽実家に帰り、ありとあらゆる収納スペースを漁った結果、一枚の紙束を発見した。それは手紙を書いた小学生の頃の文集で、その中に将来の夢に関する記述だった。
そこにはこう書かれていた。

結局金だった。
 まだ10歳にもなっていない子どもが、ここまで人間らしい欲望を見せていて良いのか。この思想を教育するために学校に通っていたのではなかったのか。道徳の授業とは、なんだったのか。懐かしさを感じる暇もなく、ただただ切なくなった。
 これを見てどっと疲れが押し寄せ、ほとほと疲れた体をストロングゼロで誤魔化す。
ごめんな、子どもの頃の俺よ‥‥‥全てを裏切ってひもじい生活を許容している俺を許してくれ。
 なんでそんなにお金がないかって?それはね、昨日27,000円する仮面ライダーのベルトを買ってしまったからさ‥‥‥。
君はその手紙を書いた10年後、対象年齢を大きく過ぎているにも関わらず仮面ライダーを始めとするボーイズトイにハマってしまうのさ‥‥‥。
でもそれは、俺が君の頃に抱いていた気持ちを忘れないまま、大人になった証でもあるんだ‥‥‥一緒にいつまでもトイザらスキッズでいようぜ‥‥‥。
 家を建てて金を儲ける夢こそ叶えられなかったが、俺の心にはあの頃の自分がいるし、腰には仮面ライダーのベルトがある。それでいいじゃないか。

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