入口から1番遠い食材だけで鍋をする

エッセイ

闇鍋という料理がある。

やみなべ【闇鍋】
明かりを落とした暗い場所でを囲み、各自思い思いに持ち寄ったものを煮て、何が入っているのかわからないまま食べる遊び。またその鍋料理 。−コトバンクより参照

冬の代名詞でもある「鍋」にエンターテイメント性まで持たせた行為、闇鍋。
その起源はよく知らないが、確かに互いにさまざまな食材を持ち寄れば準備も楽だし、実食と解答で一通り盛り上がること間違いない。
しかし僕は昔から思っていることがある。
「その闇鍋、本当に闇鍋ですか?」と。

日本の闇、それはフードロス。
日本の食品廃棄量は年間で約600トンという。東京ドーム5個分もの食べ物が無駄になってしまう状況、これこそ「闇」ではないだろうか。
「もしかすると廃棄となってしまう食材だけで鍋をする」これが僕の考える本当の闇鍋である。

廃棄になると聞くと半額になっている野菜や生ものが思い浮かぶが、案外そういった商品は値引きの結果捌けることが多いので、今回はより「常日頃目立ちにくい存在」にスポットを当てていく。

「廃棄になる可能性がある」=「人の手に取られにくい」と仮定して、スーパーの入口から1番遠い食材だけで鍋をしたら果たして闇鍋になるのかを検証していこうと思う。
※重いテーマを扱っているようにみえてしまっていますが、これからどんどん滑稽になっていくのでご安心ください。あなたがご覧になっているのはちゃんとナンセンスダンスです。

鮮魚の宝庫、吉池の端っこ

まずは上野御徒町にあるスーパー吉池。ここは新鮮な魚介類が市場価格で販売されており、プロも買いにくるスーパーと呼ばれている。
2014年にリニューアルされた吉池は1階が鮮魚、B1に総合食料品、B2Fに日用品・酒類を販売している。
今回の闇鍋レギュレーションは「入口から1番遠いところにある食料品」なので、
まだ生きているカニたちや、冬鍋の名手、牡蠣なんかも全て無視しなくてはいけない。

1Fの鮮魚コーナーよりもB1Fの総合食料品フロアの方が入口から遠いため、B1Fに降りる。
こちらにもお肉や鰻、惣菜など美味しいものは沢山あるのでまだ期待はできる。

フロアマップで確認すると出入り口が複数あるため、「入口から1番遠い」とするとこの辺りが目指すべき場所だろうか。そしてその場所、吉池で1番入口から遠いところにあったものは……ミネラルウォーター、evian。

こんなに美味しいそうなものがたくさん陳列されているのに、全て無視して「水」を買わねばならないのが悔しい。無念である。
おそらく吉池にevianだけ買いに行きているのは僕だけだろう。

普通に並んでいる鍋の素が欲しくてたまらなかった

飲める鍋への道

続いて都会の頼れる味方、まいばすけっと。

店舗数の多さも去ることながら、朝早くから夜遅くまで営業してくれているのがありがたい。

品数こそ大きなスーパーには敵わないが、スーパーとしておさえて欲しい商品はしっかりカバーしているため、一体どんなものが店の隅に置かれているのか気になるところだ。

店舗のサイズは小さめのことが多いまいばすけっと、すぐに端っこの商品にたどり着けた。ブルガリアのむヨーグルト。

この時点で「美味しい鍋」を作ることが終わった。
今手元にあるのは、「ミネラルウォーター」と「飲むヨーグルト」だけ。これで鍋を……お腹でも痛めたのか?

気を取り直して次のスーパー、オオゼキへ。
オオゼキも生鮮食品が美味しく、個人的にはお気に入りのスーパーである。

フロアマップはなかったので、入口から対角線状にまっすぐ奥に入っていった。
すると、精肉売り場が近づいてきた。

今手持ちのカードは、水と飲むヨーグルト。ここで肉が入ると鍋としての魅力がぐっと生まれてくるのではないだろうか。
希望を胸に歩みを進めると、だんだんオオゼキの入口から1番遠いところにある食品が見えてきた。桜島どりだし。また液体である。

え、スーパーの隅って、液体しか置いちゃいけない決まりでもあるの?
このままだと、鍋というよりスープが出来上がってしまう。
序盤であれほど、「鍋」であることの重要性を説いていたのに、出来上がった鍋がスープでは格好がつかない。
でもルールはルール、味に深みが出ることだけを祈って大人しく出汁を手に入れた。

 

ここからはダイジェストで手に入れた商品を紹介しよう。

圧倒的広さのフロアを持つ西友、

入口が複数あって少々混乱したが、フロアマップに従って隅っこの「伝統食品」カテゴリーの中から発見したのは「スンドゥブ」
やっと鍋らしいものを加えられたが、またしても汁である。

お次は四葉のクローバーが目印のスーパー、ライフ。

ここも3フロアにも及ぶ大型スーパーだが、階段を上がって1番入口から遠いところを目指すと、そこにあったのは……ナムルの味付け用粉末調味料だった。
やっと液体を脱することができたと思ったら、次は粉末。
中々ちゃんとした「具」を入れることができない。

そして最後に回ったのは肉のハナマサ。
名前の通り、精肉が豊富で値段も安い。あまり使ったことはなかったのだが、店内は肉だけではなく他の食料品もちゃんと揃っていた。
業務用の調味料が多くあり、眺めているだけでも結構楽しい。

そんな肉のハナマサの入口から1番遠い商品はというと、あおさしじみスープである。肉じゃないんかい。
いよいよ、スープであることが確定されてしまった。

集う闇

自宅に帰り、闇(スーパーで入口から1番遠い)食材を広げる。わかってはいたが、やはり具がない。到底今から鍋を作る時のラインナップとはいえない。
まあでも、作ってみるまではわからないだろう。早速1人用の鍋を用意して、食材を投入していく。まずはevian。このタイミングでは通常の鍋を作る手順と変わらないので、脳が「美味しい鍋」を作ると勘違いしているのか、ちょっとだけワクワクした。飲むヨーグルトを入れた時点でそのワクワクはいけないことをしている罪悪感に変わる。

すでに前段で抱いた希望は儚く散り、脳が「これは一体何を……!?」とエラーメッセージを出している感覚がする。闇鍋の開始だ。そして唯一の鍋らしい食材、スンドゥブの素。
一気に部屋がキムチっぽい刺激的な香りに包まれる。いわゆる(使い方は違うが)味をキメる瞬間だった。
ここで気がついたが、汁っ気が多すぎて鍋が溢れそうになっている。

そしてキラー枠、(今回においては)無駄に質の高い桜島どりだしのスープ。

パッケージの感じから液体をイメージしていたが、ゼリー状の塊ボトボトと出てくる。
おそらくコラーゲンがたっぷり、鳥の風味がぎっしり詰まった出汁スープなのだろうが、しかしスンドゥブの影響で鍋には全く変化が見られない。
今の時点では味に深みが出ていることを願うしかない。

そして最後にナムルの粉末の素を入れ、
あおさ入りしじみスープを入れる。

何味になるのか全く想像ができない。ただただ調味料に調味料を入れ、味を濃くし続けている。これ、塩分量が相当まずいのではないだろうか。栄養素的にはこの時点で真っ黒だ。

これを鍋らしく、一煮立ちさせてみる。地獄みたいになってしまった。
具がないため鍋の中で水の対流が激しく発生している。中でくるくる回っている海藻が悲しい。

食べれる闇

お待たせしました。闇鍋の完成です。食後か?????

スープだと考えれば病人食のようにも見えるが、実際は塩分過多の地獄スンドゥブしじみスープ(ヨーグルト風味)なので、到底体が弱っている人には食べさせることができない。

実際に食べてみよう……しょっぱ辛い!!!!!

おじいちゃんみたいな顔になってしまった。
そうだ、他の食材に気を取られていたが、スンドゥブの素は辛口だった。
さらにそこにナムルの素(1袋)が入っているため、激辛になっている。
鳥だしによってとろみが出ているためか、スープが強く海藻類に絡んでおり、しっかりとスープを味わうことができるのだが、この場合は逆効果だった。
そしてevianと飲むヨーグルトは全く気配を感じない。スンドゥブに飼い慣らされている。

闇を煮込んだその先には

食べながらずっと「豆腐があれば」「せめてもやしとかあれば」「贅沢をいえば鶏肉とか欲しい」とずっと願いを抱き続け、1日かけてちびちびと闇鍋(激辛スープ)を食べた(飲んだ)後、翌朝まで腹痛で苦しめられた。

闇鍋の本気を見た気がする。今回は特にスンドゥブ(辛口)がとんでもなく厄介だった。1番鍋らしい食材に殴られるとは思わなかった。食べ物をイジったバチに当てれらたのだろうか。

しかし、今回の本当の闇鍋をやってみてわかったことがいくつかある。

・スーパーの入口から1番遠いところにはなぜか液体の商品が多い
・調味料や加工食品の場合もある
・辛口のスンドゥブに飲むヨーグルトを入れてもさほど影響はない
・1人で汁だけの鍋を完食するのは大変

液体や加工食品は賞味期限までの足が長い商品が多いので、もしかすると入口から遠いところに置かれがちなのかもしれない。

少なくとも、闇はしっかり感じれる鍋だった。
しかし僕のこの行動によって、一部のスーパーの端っこに少しだけ光が差されたことを忘れてはならない。
僕が作った闇鍋は闇でありながら、食品業界にとっては光鍋でもあるのだ。
ある局面から見ると属性が裏返る感じ、まさに闇鍋の真髄を表せたのではないだろうか。

暗くなくても闇鍋はできる。闇という言葉の本質をそれぞれ考えながら、具材を考えるのも闇鍋の楽しさの一つだろう。僕はもうやらないと思う。

 

 

※実食前、食べたくなくて窓の外を見ている様子

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